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プロフィール
HN:
水草蓮
性別:
女性
職業:
副団長
趣味:
もふ
自己紹介:
もふに夢中なダメ女。
馬車の戸を開き、ユグドラシルにどさっと大量の林檎を渡される。
「ジーニアスが好きなんだ。」
そうぽつりと言って馬車に乗る。
「わかった。
また、来てくれ。」
そう言うと変な顔をされ、
「ああ。ジーニアスを頼む。」
「わかってる。」
「ただいま。
林檎沢山貰ったぞ。」
そう言いながら入るとジーニアスが慌てて目をこする。
「おかえり。
ありがとう。いつも沢山くれるの。」
嬉しそうに林檎を一つとり、そのままかじる。
ざくっとした歯ごたえ。
じんわりと甘い果汁。
ぽたりと垂れて床を濡らす。
「凄いね。
ユグは林檎選びの天才だよ。」
後で近所にお裾分けして、ジャムを作ろうとジーニアスが言う。
「…ジーニアス。
部外者の私が言うのもなんだが、いいのか?」
「何が?」
林檎を抱えたジーニアス。
暗闇を映している瞳。
「お前には何かの庇護が必要だ。
彼…ならお前を大切にしてくれる保障があるのに何故拒む?」
「クラトスは…何も知らないから言えるんだよ。
その言葉。」
冷たい響きを含んだ声。
「僕は大丈夫だよ。
あれは…仕方がなかったんだ。」
そう呟いて、もう会話は終わりと言わんばかりに台所へと行ってしまった。
じゃあさっきのは?
目をこすったのは泣いていたからでは?
クラトスは一つため息をついて洗濯を終らせるために外に出た。
ユグドラシル。
年齢は自分より年下でジーニアスより年上。
元々、ジーニアスの幼なじみである。
前領主の一人息子。
容姿淡麗頭脳明晰。
町を心の底から愛し、大切にしている。
町の人もそんな領主を慕い、好いている。
ジーニアスが住んでいる界隈はこの町の保護区であり、家賃はほぼ無賃。
障害者及び失業者、年寄り、身よりのない子供などが暮らしている。
町からは住む場所と少量の金が保障されている。
彼は完璧だった。
町を愛する良き領主。
結婚相手としては申し分ないだろう。
なのになんでジーニアスが断るのかが分からない。
二人の間に深い溝があるのも。
ジーニアスには幸せになって欲しい。
心からそう思い願う。
しとしとと雨が降る。
「お洗濯物乾かないねぇ。」
部屋にぶらさがっている洗濯物。
邪魔だし湿気が酷いし…とジーニアスがぼやく。
「そうだな。
お茶でも煎れるか。
火を少し焚けば緩和されるだろう。」
そうクラトスが言い、立ち上がる。
「うん。そうだね。」
ジーニアスが嬉しそうに言う。
「戸棚にまだスコーンあるからそれと林檎ジャムもね。」
「はいはい。」
ジーニアスに言われたように戸棚からスコーンを取り出し皿に。
ジャムを瓶ごと皿に乗せ、ジーニアスの前に。
「もうすぐ湯が沸くから待てよ。」
「はーい。」
元気の良い返事を返してくる。
ことんとほどよく冷めた茶の入ったカップが置かれる。
「いただきます。」
ジーニアスが嬉しそうにカップを手で包み込むように持ち、一口飲む。
林檎の皮を干してハーブティーと混ぜたオリジナルだ。
林檎の爽やかな酸味が丁度いい。
「ジーニアスはお茶の天才だな。
こんなに飲みやすい美味い茶を作るのだから。」
「そんなことないよ。」
ジーニアスが照れる。
可愛いなとか頭の隅で思いながらジャムの蓋を明け、ジーニアスに渡す。
ありがとうとジーニアスが言い受け取る。
見えないのに起用にジャムを掬い、スコーンに付けて食べてゆく。
「クラトスは?」
「少し貰う。」
ジーニアスにジャムを少し貰い、食べる。
焼きたても美味いが、冷めても美味しい。
ジーニアスは凄いなと思いながら食べていると、
「ねぇ。クラトスはいつ、旅に出るの?」
顔を上げてジーニアスを見る。
「だって…貴方は旅の途中でしょ?
こんな所で道草食べちゃ駄目。」
「……そう…だな。」
一口茶をすする。
ジーニアスとの生活は心地よく、楽しい。
ずっと昔から一緒に暮らしていたようで。
「あのね。
あんまりクラトスが長い間居てくれるとね。
頼っちゃうの。
クラトスは…旅の途中。
いつか居なくなる。
そう考えると凄く悲しくて寂しいの。」
今まで一人だった。
一人で身の回りをこなし、生活してきた。
クラトスが来てから重労働である水汲みや薪運び仕事をしなくて済んだ。
何か困ったらクラトスが手を差しのべてくれた。
嬉しいし、有り難い。
「だけどね。
あんまり甘えたくないんだ。
一人…にまたなったら困るから。
ごめんね。僕の都合で。」
ジーニアスが申し訳なさそうに言う。
「いや。すまない。
つい、ジーニアスの好意に甘えてしまったな。」
クラトスが謝罪の言葉を述べる。
「実は…梅雨があけたら行こうかと。
ずっと思っていて言いだせなかった。
すまない。」
「ううん。いいの。
僕こそごめん。
追い出すみたいで嫌だね。本当。」
最後の一口を噛み砕いて飲み込んで。
「支度しなきゃ。
日持ちするパン焼かなきゃね。」
ジーニアスが楽しそうに言う。
「旅の支度手伝うのなんて初めて!」
貴重な体験だよねと笑顔で言葉を繋げる。
「僕の分まで旅をしてください。
僕の分まで世界を見てきてください。
僕は…。
僕は貴方の友人として願います。」
その言葉が心の底まで浸透する。
「ありがとう。
近くに来たらまた寄るから。」
そう言ってジーニアスを抱きしめる。
「うん。待ってるね。
ずっと。ずっと。」
ジーニアスが小さく呟いてクラトスにしがみついた。
からっと晴れた日。
クラトスは旅に出た。
なんでかユグドラシルも見送りにきた。
「気をつけて!
元気でね!」
ジーニアスの声。
「ああ。ジーニアスも元気で!
ユグドラシル。
ジーニアスを任せた!」
「ああ。わかっている。」
友の背中が小さくなる。
「あのね。ユグ。」
「なんだ?」
ジーニアスの小さな声。
「僕ね。多分クラトスの事好きだよ。」
小さな呟き。
「…そうか。」
それだけ返してジーニアスに帰ろうと促す。
彼を束縛するのは簡単だ。
自分が必要だから傍にいてと言えば彼はいてくれただろう。
だけど駄目だ。
彼は旅の途中。
きっと何かを探しいるのだろう。
そう思った。
一部終わり。
去年の秋あたりからずっと携帯に放置していたのを書きました。
一応一部。前半。
次は中編で後半。
三部構成です。
まだジーニアスは生きていますね。
ユグドラシル様がいまいち報われません。
ジーニアスとユグドラシル様の間にある溝は二部にて。
他の小説も書かなきゃ?
「ジーニアスが好きなんだ。」
そうぽつりと言って馬車に乗る。
「わかった。
また、来てくれ。」
そう言うと変な顔をされ、
「ああ。ジーニアスを頼む。」
「わかってる。」
「ただいま。
林檎沢山貰ったぞ。」
そう言いながら入るとジーニアスが慌てて目をこする。
「おかえり。
ありがとう。いつも沢山くれるの。」
嬉しそうに林檎を一つとり、そのままかじる。
ざくっとした歯ごたえ。
じんわりと甘い果汁。
ぽたりと垂れて床を濡らす。
「凄いね。
ユグは林檎選びの天才だよ。」
後で近所にお裾分けして、ジャムを作ろうとジーニアスが言う。
「…ジーニアス。
部外者の私が言うのもなんだが、いいのか?」
「何が?」
林檎を抱えたジーニアス。
暗闇を映している瞳。
「お前には何かの庇護が必要だ。
彼…ならお前を大切にしてくれる保障があるのに何故拒む?」
「クラトスは…何も知らないから言えるんだよ。
その言葉。」
冷たい響きを含んだ声。
「僕は大丈夫だよ。
あれは…仕方がなかったんだ。」
そう呟いて、もう会話は終わりと言わんばかりに台所へと行ってしまった。
じゃあさっきのは?
目をこすったのは泣いていたからでは?
クラトスは一つため息をついて洗濯を終らせるために外に出た。
ユグドラシル。
年齢は自分より年下でジーニアスより年上。
元々、ジーニアスの幼なじみである。
前領主の一人息子。
容姿淡麗頭脳明晰。
町を心の底から愛し、大切にしている。
町の人もそんな領主を慕い、好いている。
ジーニアスが住んでいる界隈はこの町の保護区であり、家賃はほぼ無賃。
障害者及び失業者、年寄り、身よりのない子供などが暮らしている。
町からは住む場所と少量の金が保障されている。
彼は完璧だった。
町を愛する良き領主。
結婚相手としては申し分ないだろう。
なのになんでジーニアスが断るのかが分からない。
二人の間に深い溝があるのも。
ジーニアスには幸せになって欲しい。
心からそう思い願う。
しとしとと雨が降る。
「お洗濯物乾かないねぇ。」
部屋にぶらさがっている洗濯物。
邪魔だし湿気が酷いし…とジーニアスがぼやく。
「そうだな。
お茶でも煎れるか。
火を少し焚けば緩和されるだろう。」
そうクラトスが言い、立ち上がる。
「うん。そうだね。」
ジーニアスが嬉しそうに言う。
「戸棚にまだスコーンあるからそれと林檎ジャムもね。」
「はいはい。」
ジーニアスに言われたように戸棚からスコーンを取り出し皿に。
ジャムを瓶ごと皿に乗せ、ジーニアスの前に。
「もうすぐ湯が沸くから待てよ。」
「はーい。」
元気の良い返事を返してくる。
ことんとほどよく冷めた茶の入ったカップが置かれる。
「いただきます。」
ジーニアスが嬉しそうにカップを手で包み込むように持ち、一口飲む。
林檎の皮を干してハーブティーと混ぜたオリジナルだ。
林檎の爽やかな酸味が丁度いい。
「ジーニアスはお茶の天才だな。
こんなに飲みやすい美味い茶を作るのだから。」
「そんなことないよ。」
ジーニアスが照れる。
可愛いなとか頭の隅で思いながらジャムの蓋を明け、ジーニアスに渡す。
ありがとうとジーニアスが言い受け取る。
見えないのに起用にジャムを掬い、スコーンに付けて食べてゆく。
「クラトスは?」
「少し貰う。」
ジーニアスにジャムを少し貰い、食べる。
焼きたても美味いが、冷めても美味しい。
ジーニアスは凄いなと思いながら食べていると、
「ねぇ。クラトスはいつ、旅に出るの?」
顔を上げてジーニアスを見る。
「だって…貴方は旅の途中でしょ?
こんな所で道草食べちゃ駄目。」
「……そう…だな。」
一口茶をすする。
ジーニアスとの生活は心地よく、楽しい。
ずっと昔から一緒に暮らしていたようで。
「あのね。
あんまりクラトスが長い間居てくれるとね。
頼っちゃうの。
クラトスは…旅の途中。
いつか居なくなる。
そう考えると凄く悲しくて寂しいの。」
今まで一人だった。
一人で身の回りをこなし、生活してきた。
クラトスが来てから重労働である水汲みや薪運び仕事をしなくて済んだ。
何か困ったらクラトスが手を差しのべてくれた。
嬉しいし、有り難い。
「だけどね。
あんまり甘えたくないんだ。
一人…にまたなったら困るから。
ごめんね。僕の都合で。」
ジーニアスが申し訳なさそうに言う。
「いや。すまない。
つい、ジーニアスの好意に甘えてしまったな。」
クラトスが謝罪の言葉を述べる。
「実は…梅雨があけたら行こうかと。
ずっと思っていて言いだせなかった。
すまない。」
「ううん。いいの。
僕こそごめん。
追い出すみたいで嫌だね。本当。」
最後の一口を噛み砕いて飲み込んで。
「支度しなきゃ。
日持ちするパン焼かなきゃね。」
ジーニアスが楽しそうに言う。
「旅の支度手伝うのなんて初めて!」
貴重な体験だよねと笑顔で言葉を繋げる。
「僕の分まで旅をしてください。
僕の分まで世界を見てきてください。
僕は…。
僕は貴方の友人として願います。」
その言葉が心の底まで浸透する。
「ありがとう。
近くに来たらまた寄るから。」
そう言ってジーニアスを抱きしめる。
「うん。待ってるね。
ずっと。ずっと。」
ジーニアスが小さく呟いてクラトスにしがみついた。
からっと晴れた日。
クラトスは旅に出た。
なんでかユグドラシルも見送りにきた。
「気をつけて!
元気でね!」
ジーニアスの声。
「ああ。ジーニアスも元気で!
ユグドラシル。
ジーニアスを任せた!」
「ああ。わかっている。」
友の背中が小さくなる。
「あのね。ユグ。」
「なんだ?」
ジーニアスの小さな声。
「僕ね。多分クラトスの事好きだよ。」
小さな呟き。
「…そうか。」
それだけ返してジーニアスに帰ろうと促す。
彼を束縛するのは簡単だ。
自分が必要だから傍にいてと言えば彼はいてくれただろう。
だけど駄目だ。
彼は旅の途中。
きっと何かを探しいるのだろう。
そう思った。
一部終わり。
去年の秋あたりからずっと携帯に放置していたのを書きました。
一応一部。前半。
次は中編で後半。
三部構成です。
まだジーニアスは生きていますね。
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他の小説も書かなきゃ?
PR
今日あった面白いのを。
ディザイアンと立木祭。
アニ響ですが、
クラトス先生によるジーニアスを対象とした碑猥プライベートレッスンアニメがついて来るそうですハァハァ。
ど…どれくらい碑猥なんですかね?
5分でジーニアスさんクラトスさんに孕まされそうです。
ユグ様だと5秒ですね。
わくわく。
とりあえず、妄想だけでえろしょうせつ書きます。
がんばろー!
とりあえず、教師クラトスと生徒ジーニアスさんで。
生徒会室であっはんうっふん。
次は家庭教師クラトスと生徒ジーニアスさん。
ジーニアスさん宅で両親居ないときにあっはんうっふん。
次はねー最近の萌えで、家庭教師ジーニアスさんと生徒クラトス。
「ジーニアス先生…。
先生の身体の事教えてよ。」
クラトスがゆっくりとジーニアスに迫る。
「ちょ…!
な…何言って!」
ジーニアスが慌てて身体を引く。
「駄目か?」
熱い視線。
ゆっくりと身体を値踏みするように視線を向けられる。
「駄目…だからね。
駄目。駄目。」
拒む為に距離を置こうとするが、クラトスの腕がジーニアスを離さない。
「駄目駄目言っているわりにはそんなに嫌そうには見えないがな。」
耳元でそっと呟くとジーニアスの身体がびくんと震える。
その反応がやたらと可愛く、そそられる。
「ジーニアス…。」
耳元で名前を囁けば駄目駄目とゆるゆると力なく首を振る。
自分よりも3歳年上なのにこんなにも可愛く愛しい。
「何が駄目なのかな?
頭の良い先生なら説明出来るよな?
私が納得出来る説明位簡単だよな。」
そう言うと、
「僕がクラトスの家庭教師だからです。
バイトの契約上、生徒および保護者との恋愛関係などの禁止。」
「マニュアルの答えだな。」
クラトスが冷たく言う。
「ジーニアスの気持ちは?
家庭教師ではなく、個人の。」
クラトスの目がジーニアスを写す。
「僕は…僕は…。」
ジーニアスが目を伏せる。
疲れたからこんな感じでジーニアスを孕ませるクラトスさんのお話書きたい。
ハァハァ
ディザイアンと立木祭。
アニ響ですが、
クラトス先生によるジーニアスを対象とした碑猥プライベートレッスンアニメがついて来るそうですハァハァ。
ど…どれくらい碑猥なんですかね?
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ユグ様だと5秒ですね。
わくわく。
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がんばろー!
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生徒会室であっはんうっふん。
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ジーニアスさん宅で両親居ないときにあっはんうっふん。
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「ジーニアス先生…。
先生の身体の事教えてよ。」
クラトスがゆっくりとジーニアスに迫る。
「ちょ…!
な…何言って!」
ジーニアスが慌てて身体を引く。
「駄目か?」
熱い視線。
ゆっくりと身体を値踏みするように視線を向けられる。
「駄目…だからね。
駄目。駄目。」
拒む為に距離を置こうとするが、クラトスの腕がジーニアスを離さない。
「駄目駄目言っているわりにはそんなに嫌そうには見えないがな。」
耳元でそっと呟くとジーニアスの身体がびくんと震える。
その反応がやたらと可愛く、そそられる。
「ジーニアス…。」
耳元で名前を囁けば駄目駄目とゆるゆると力なく首を振る。
自分よりも3歳年上なのにこんなにも可愛く愛しい。
「何が駄目なのかな?
頭の良い先生なら説明出来るよな?
私が納得出来る説明位簡単だよな。」
そう言うと、
「僕がクラトスの家庭教師だからです。
バイトの契約上、生徒および保護者との恋愛関係などの禁止。」
「マニュアルの答えだな。」
クラトスが冷たく言う。
「ジーニアスの気持ちは?
家庭教師ではなく、個人の。」
クラトスの目がジーニアスを写す。
「僕は…僕は…。」
ジーニアスが目を伏せる。
疲れたからこんな感じでジーニアスを孕ませるクラトスさんのお話書きたい。
ハァハァ
「彼女を生き還らせたい。その為ならなんでもしてやる。」
そう高らかに言った。
×灯火×
彼女が殺された。
細い身体に銀が突き刺さる。
銀が彼女を貫いた。
彼女と。ジーニアスと出会ったのは5年前。
寒い日だった。金がつきてのたれ死に寸前だった私を。
クラトスを拾ってくれた。
『どうしたの?寒いの?何もないけどうちにおいで?』
そっと差し延べられた小さな手。
それをつかんでついていった寒い日。
彼女の家について気がついたのは彼女は何も見えないという事。
元はきっと凄く綺麗だったのであろう蒼の暗い瞳。
視力を失っていたのだ。
「あ。ごめんなさい。目。見えないの。
声のするほうに顔向けるけど、違ったらごめんなさい。」
苦笑を浮かべて言う。
「大丈夫だ。私はあなたの目の前に居るから。」
「そう?よかった。」
彼女が笑う。
凄く綺麗な笑顔だった。
「好きなだけいていいからね。
どうせ僕しか居ないし。」
「一人で暮らしているのか?」
「うん。」
そう短い返事を返してから台所へと立つ。
「何もないけど、ちょっと待ってね。」
慣れた手つきで野菜の切れはしを刻み、湯の沸いた小鍋にいれてゆく。
塩とミルクで味付けし、使い古した木椀に注いだ。
「はい。どうぞ。」
そういって普通に目の前に椀が置かれる。
パンの切れはしと共に。
「そんなものしか出せないけど、ゆっくりしていって。」
ありがたかった。
ここ数日、まともな食事はとってない。
温かいスープを飲み、堅いパンも気にしないで食べた。
彼女はにこにことしながらタイミング良くおかわりを入れてくれた。
あまりにも温かかく優しさに涙がでた。
ジーニアスは裁縫で日々の生計を立てていた。
布の切れはしを丁寧に縫い合わせ、袋を作っているのだ。
目が見えないと言うのを忘れさせる手つき。
ひとはりひとはり丁寧に縫い合わせてゆく。
「凄いな。」
「そうかな?」
ジーニアスが笑う。
「大した値段にならないからあまり上手じゃないのかな?」
ジーニアスが苦笑を浮かべる。
「いや、それはおかしい。」
これと似たのを街で見かけた。
なかなかいい値段で売られていたのだ。
もしかしたら…と思った。
ジーニアスは目が見えない。
だから、安く引き取り、高値で売る。
ひとつジーニアスに恩返しが出来ると思った。
「次はいつ売りに行くのだ?」
「明日だよ。夜が明けたら。」
「そうか。私も一緒に行って良いか?」
ジーニアスがその申し出にきょとんとする。
「ジーニアスが作った他のも見たいんだ。」
「そうなの?あまり大した物じゃないけど。」
ジーニアスが苦笑を浮かべる。
「いいよ。一緒に行こう。」
「ああ。ありがとう。」
夜が明けた。
久しぶりに屋根のある場合で寝た。
ジーニアスに借りた毛布を畳み、隣で寝ている彼女を起こさないようにしながらそっと外に出た。
体を少し動かす。
冷たい朝の空気を沢山吸い込んで吐いて。
「あぁ…良く寝た。」
首を回して腰から下げている刀に手をやる。
金がつきても売らなかった大切な愛刀。
シュ…と鞘から抜くときらりと朝日を受けて銀の刀身が輝く。
「はっ!」
短い気合いと共に振ると空気の切れる音がしたような気がした。
「クラトスさん…?」
後ろから聞こえた声。
「すまない。起こしてしまったな。」
そう謝罪すると、
「ううん。そろそろ起きようと思っていたから。
水、汲んでくるね。」
そう言って桶を手に取る。
「私がやろう。一宿一飯のお礼だ。」
そう言ってジーニアスの手から桶を取る。
「そんな…たいした事してないのに。」
「いや、本当に助かった。
だから、せめても。だ。」
そう言って井戸へと足を向けた。
冷たい水で顔を洗って身支度を整える。
「朝ご飯少し待って下さいね。
袋を届けてお金貰ったら朝食なの。」
綺麗な袋の詰まった鞄を肩からさげ、苦笑を浮かべる。
「気にしないでくれ。
さぁ行こう。」
クラトスがそう言ってジーニアスの手を掴む。
ジーニアスがえっ…とした顔をして真っ赤になる。
「迷子になったら探すの大変だろ?」
そう声をかけるとこくこくと頷く。
「人…凄いの。僕じゃ探せないよ。」
そう小さく言ってきゅっとクラトスの手を握り締めた。
早朝の市場。
人通りはまだ少ないが、店の支度で沢山の人が動いていた。
「おやジーニアス。
そんな色男つれて散歩かい?」
「違いますっ!
お店に行くの!」
顔を真っ赤にしたジーニアスが言い返す。
「おやおや…仲がいいことで。」
「もう!行こう。」
ジーニアスがぷりぷりとしながら歩みを早めた。
「ねー。」
「なんだ?」
あれこれキョロキョロとしていた顔をジーニアスに向ける。
「クラトスさんってかっこいいの?」
「難しい質問だな。」
クラトスが苦笑を浮かべる。
「だって…おばさんが色男って言うんだもん。」
「お世辞だろ。」
「ううん。おばさんはかっこいい男の人来るとすぐオマケしちゃうんだ。
きっとクラトスさん凄くかっこいいんだねぇ…。」
最近、なかなかいい男居ないのよとこぼしていたしとジーニアスが繋げる。
「私は自分が色男だとは思わない。
普通だろう。」
「そうかなぁ…」
ジーニアスが首を傾げる。
「かっこいいと思うんだけどな。僕。」
「ここだよ。」
ジーニアスが足を止めたのは一件の立派な店。
「ごめんください。
おはようございます。
ジーニアスです。」
そう声をかけると立派な戸が開き、一人の老人が出てきた。
「やっと来たか。入れ。後ろの男は誰だ?」
値踏みをするような視線。
「僕の知り合いです。
前に僕が作ったのを見たいんだって。いいですか?」
「ふぅん。あまり触るなよ。」
そう釘を刺してから中へまねきいれた。
店の中はところせましと言わんばかりに商品が積まれていた。
「娘のはそこの棚だ。」
組まれた棚の一角に綺麗な袋がちょこんと置かれていた。
品数がつきかけていたらしく、2つだけ並んでいた。
『割高だな…』
商品を見ているふりをしながら値段を見る。
上等の肉が買える位の値段である。
これの半額の賃金でも十分まともな食事がとれるであろう。
ジーニアスの作った袋の数を数え、銅貨を数枚つかむ。
「ほら。駄賃だ。」
「ありがとう。」
ジーニアスが受け取る前に
「店主。それでは金額が釣り合わないぞ?」
クラトスが言う。
「少なくとも銀貨5枚だろう。」
「な…!なんだと?!」
店主が顔を真っ赤にする。
「ジーニアス行こう。
ここではなく他の店に。
これほどのであれば何処も喜んで高値で引き取ってくれる。」
手早く袋を集めかばんにしまう。
「え…でも…。」
ジーニアスが困った顔をする。
「ほら、いいから。
先ほどの店の前にあった店はどうだ?」
ジーニアスの手を掴み、店から出ようとする。
「ま…まて…。
それは店一番の商品なんだ。
それがなくなったら困る。
銀貨5枚で買い取ろう。」
「今までどれくらい騙し取っていたのだ?」
クラトスがちらりと視線を向ける。
「う…わかった。金貨2枚だ。」
「まずまずなところだな。
あ。銅貨と銀貨でわたしてくれ。」
ずっしりと重くなった財布。
いつもは銅貨2枚入っていたら良いほうだ。
「…あれで良かったのかなぁ…?」
焼魚定食をつつきながらジーニアスが言う。
骨が丁寧に抜いてあり、適当な暖かさ。
きっと、目の見えないジーニアスへの店の主の気遣いだろう。
『ジーニアスは沢山の人に見守られているのだな。』
短い時間を共有しただけだが、この町の皆がジーニアスを影でそっと支えて、支えられている。
そして、そんな彼女に惹かれる自分。
「ジーニアス…暫く、一緒に居てもいいか?」
そう言うと、
「うん。どうぞ。
って言ってもあんまり良いもの出せないけど。」
ジーニアスが苦笑を浮かべる。
「いや。私も働く。
自分の食いぶち位稼ぐから。
すまないな。」
彼女の大きな負担になると分かっても居たいと願った。
「お金稼ぐのはいいけど…。
お仕事あるかな?」
ジーニアスが小首を傾げる。
「大丈夫だ。私にはコイツがいる。」
そう返してそっと愛刀に手をやった。
人の居る場所には必ず邪なのが常に存在している。
この町の中はきちんと整備されていて、安全だ。
だが、一歩外に出ると獣や盗賊などが徘徊する世界。
それをクラトスは知っている。
そして、元々傭兵―ようは荷物運搬などの護衛―で食っていた。
だから、町の人も森に行く。
それの護衛をする職についたのだ。
長くても1日。
それでそれなりの稼ぎになる。
稼ぎの半分をジーニアスに渡し、残りは貯蓄する。
またいつか旅に出る。
その時の資金になるのだ。
最初、ジーニアスはお金を受けとらなかった。
たいした事も出来ないし、クラトスさんのおかげで稼ぎが良くなったから。と。
「ジーニアスの目の手術費に。」
そう強く言って渡した。
ジーニアスの家に住みついてから半月たったある日、豪華な馬車がジーニアスの家に停まった。
ガチャ…と戸が開く。
「わぁー領主様だ!」
外で遊んでいた子供達が駆け寄る。
「こんにちは領主様。」
「ああ。こんにちは。」
長い金色の髪に若葉色の瞳。
一見、冷たい容姿をしていたが、その目は暖かい柔らかい光をおびていた。
ユクドラシル。この町を収める若き領主。
町の人達に慕われる存在。
子供の頭をぐりっと撫でて、
「ジーニアスはいるか?」
「うん。お姉ちゃんいるよ。」
「クラトスと一緒に裏にいるよ!」
聞きなれない人名に驚きつつ、
「分かった。ありがとう。」
そうにこやかに返して裏へと向かう。
裏へ出ると賑やかなジーニアスの声。
こんな明るいジーニアスの声は久しぶりに聞いたなと思いながら声をかける。
「ジーニアス…。」
洗濯していたジーニアスが止まり、声のした方へ。
「ユグ…。」
ジーニアスの声。
そして、
「ジーニアス?」
知らない男の声が被さる。
どうやら、井戸から水を汲んできたらしく、桶を持っていた。
「あ。クラトスさん。」
水の入った桶を受け取り、盥に流す。
「領主様。ごめんなさい。
少し待ってください。」
「ああ。」
ユクドラシルが短く返事を返す。
こぽこぽと茶を煎れる音。
「はい。」
「ありがとう。」
礼を言って受け取る。
ジーニアスが煎れてくれる茶が一番好きだ。
一口飲んでからジーニアスが、
「あ。紹介まだだよね?
こちらはユクドラシル。
この町の領主様。
で、こっちはクラトス。
旅の傭兵さん。」
「はじめまして。
ようこそ我が町へ。」
「こちらこそはじめまして。
とても素敵ないい町ですね。」
そう挨拶を交してジーニアスへと視線を向ける。
「それで…ジーニアス…。」
ユクドラシルが何かを切り出す。
「…………ごめんなさい。
やっぱり駄目だよ…。」
ジーニアスが目を伏せる。
「どうしてもか?」
ユクドラシルの悲しそうな声。
「うん。ごめんね。」
「…いや、いい。
また来るから。」
そう言ってジーニアスの頭を撫でる。
「何度でも来るから。」
「うん。ごめん。」
ジーニアスが泣きそうな顔でそう言った。
「クラトス。ちょっといいか?」
茶を飲み、そろそろ行くと言ったユクドラシルがクラトスに声をかける。
「ああ。」
ジーニアスに見送りしてくるとちゃんと伝え、一緒に家の戸をくぐった。
ゆっくりと馬車へと向かう。
「ジーニアスは幼なじみだ。」
ユクドラシルがぽつりと言う。
「彼女の目を潰したのは私が原因なんだ。」
「…そうか。」
事情は聞かない。
いつか、話してくる時を待つ。
「なんの事情があるのか私は知らないが、ジーニアスにあまり関わるな。
お前が居なくなって困るのはジーニアスだ。」
冷たく言われたその言葉。
彼にとってジーニアスが大切な人なのか伝わる。
多分、先ほどの会話は、結婚の申し込みの返事なのだろう。
何度も何度も申し込んではごめんと言われるみ
それでも諦めが付かず、また来る。と。
☆文字制限キツー。
続く。
そう高らかに言った。
×灯火×
彼女が殺された。
細い身体に銀が突き刺さる。
銀が彼女を貫いた。
彼女と。ジーニアスと出会ったのは5年前。
寒い日だった。金がつきてのたれ死に寸前だった私を。
クラトスを拾ってくれた。
『どうしたの?寒いの?何もないけどうちにおいで?』
そっと差し延べられた小さな手。
それをつかんでついていった寒い日。
彼女の家について気がついたのは彼女は何も見えないという事。
元はきっと凄く綺麗だったのであろう蒼の暗い瞳。
視力を失っていたのだ。
「あ。ごめんなさい。目。見えないの。
声のするほうに顔向けるけど、違ったらごめんなさい。」
苦笑を浮かべて言う。
「大丈夫だ。私はあなたの目の前に居るから。」
「そう?よかった。」
彼女が笑う。
凄く綺麗な笑顔だった。
「好きなだけいていいからね。
どうせ僕しか居ないし。」
「一人で暮らしているのか?」
「うん。」
そう短い返事を返してから台所へと立つ。
「何もないけど、ちょっと待ってね。」
慣れた手つきで野菜の切れはしを刻み、湯の沸いた小鍋にいれてゆく。
塩とミルクで味付けし、使い古した木椀に注いだ。
「はい。どうぞ。」
そういって普通に目の前に椀が置かれる。
パンの切れはしと共に。
「そんなものしか出せないけど、ゆっくりしていって。」
ありがたかった。
ここ数日、まともな食事はとってない。
温かいスープを飲み、堅いパンも気にしないで食べた。
彼女はにこにことしながらタイミング良くおかわりを入れてくれた。
あまりにも温かかく優しさに涙がでた。
ジーニアスは裁縫で日々の生計を立てていた。
布の切れはしを丁寧に縫い合わせ、袋を作っているのだ。
目が見えないと言うのを忘れさせる手つき。
ひとはりひとはり丁寧に縫い合わせてゆく。
「凄いな。」
「そうかな?」
ジーニアスが笑う。
「大した値段にならないからあまり上手じゃないのかな?」
ジーニアスが苦笑を浮かべる。
「いや、それはおかしい。」
これと似たのを街で見かけた。
なかなかいい値段で売られていたのだ。
もしかしたら…と思った。
ジーニアスは目が見えない。
だから、安く引き取り、高値で売る。
ひとつジーニアスに恩返しが出来ると思った。
「次はいつ売りに行くのだ?」
「明日だよ。夜が明けたら。」
「そうか。私も一緒に行って良いか?」
ジーニアスがその申し出にきょとんとする。
「ジーニアスが作った他のも見たいんだ。」
「そうなの?あまり大した物じゃないけど。」
ジーニアスが苦笑を浮かべる。
「いいよ。一緒に行こう。」
「ああ。ありがとう。」
夜が明けた。
久しぶりに屋根のある場合で寝た。
ジーニアスに借りた毛布を畳み、隣で寝ている彼女を起こさないようにしながらそっと外に出た。
体を少し動かす。
冷たい朝の空気を沢山吸い込んで吐いて。
「あぁ…良く寝た。」
首を回して腰から下げている刀に手をやる。
金がつきても売らなかった大切な愛刀。
シュ…と鞘から抜くときらりと朝日を受けて銀の刀身が輝く。
「はっ!」
短い気合いと共に振ると空気の切れる音がしたような気がした。
「クラトスさん…?」
後ろから聞こえた声。
「すまない。起こしてしまったな。」
そう謝罪すると、
「ううん。そろそろ起きようと思っていたから。
水、汲んでくるね。」
そう言って桶を手に取る。
「私がやろう。一宿一飯のお礼だ。」
そう言ってジーニアスの手から桶を取る。
「そんな…たいした事してないのに。」
「いや、本当に助かった。
だから、せめても。だ。」
そう言って井戸へと足を向けた。
冷たい水で顔を洗って身支度を整える。
「朝ご飯少し待って下さいね。
袋を届けてお金貰ったら朝食なの。」
綺麗な袋の詰まった鞄を肩からさげ、苦笑を浮かべる。
「気にしないでくれ。
さぁ行こう。」
クラトスがそう言ってジーニアスの手を掴む。
ジーニアスがえっ…とした顔をして真っ赤になる。
「迷子になったら探すの大変だろ?」
そう声をかけるとこくこくと頷く。
「人…凄いの。僕じゃ探せないよ。」
そう小さく言ってきゅっとクラトスの手を握り締めた。
早朝の市場。
人通りはまだ少ないが、店の支度で沢山の人が動いていた。
「おやジーニアス。
そんな色男つれて散歩かい?」
「違いますっ!
お店に行くの!」
顔を真っ赤にしたジーニアスが言い返す。
「おやおや…仲がいいことで。」
「もう!行こう。」
ジーニアスがぷりぷりとしながら歩みを早めた。
「ねー。」
「なんだ?」
あれこれキョロキョロとしていた顔をジーニアスに向ける。
「クラトスさんってかっこいいの?」
「難しい質問だな。」
クラトスが苦笑を浮かべる。
「だって…おばさんが色男って言うんだもん。」
「お世辞だろ。」
「ううん。おばさんはかっこいい男の人来るとすぐオマケしちゃうんだ。
きっとクラトスさん凄くかっこいいんだねぇ…。」
最近、なかなかいい男居ないのよとこぼしていたしとジーニアスが繋げる。
「私は自分が色男だとは思わない。
普通だろう。」
「そうかなぁ…」
ジーニアスが首を傾げる。
「かっこいいと思うんだけどな。僕。」
「ここだよ。」
ジーニアスが足を止めたのは一件の立派な店。
「ごめんください。
おはようございます。
ジーニアスです。」
そう声をかけると立派な戸が開き、一人の老人が出てきた。
「やっと来たか。入れ。後ろの男は誰だ?」
値踏みをするような視線。
「僕の知り合いです。
前に僕が作ったのを見たいんだって。いいですか?」
「ふぅん。あまり触るなよ。」
そう釘を刺してから中へまねきいれた。
店の中はところせましと言わんばかりに商品が積まれていた。
「娘のはそこの棚だ。」
組まれた棚の一角に綺麗な袋がちょこんと置かれていた。
品数がつきかけていたらしく、2つだけ並んでいた。
『割高だな…』
商品を見ているふりをしながら値段を見る。
上等の肉が買える位の値段である。
これの半額の賃金でも十分まともな食事がとれるであろう。
ジーニアスの作った袋の数を数え、銅貨を数枚つかむ。
「ほら。駄賃だ。」
「ありがとう。」
ジーニアスが受け取る前に
「店主。それでは金額が釣り合わないぞ?」
クラトスが言う。
「少なくとも銀貨5枚だろう。」
「な…!なんだと?!」
店主が顔を真っ赤にする。
「ジーニアス行こう。
ここではなく他の店に。
これほどのであれば何処も喜んで高値で引き取ってくれる。」
手早く袋を集めかばんにしまう。
「え…でも…。」
ジーニアスが困った顔をする。
「ほら、いいから。
先ほどの店の前にあった店はどうだ?」
ジーニアスの手を掴み、店から出ようとする。
「ま…まて…。
それは店一番の商品なんだ。
それがなくなったら困る。
銀貨5枚で買い取ろう。」
「今までどれくらい騙し取っていたのだ?」
クラトスがちらりと視線を向ける。
「う…わかった。金貨2枚だ。」
「まずまずなところだな。
あ。銅貨と銀貨でわたしてくれ。」
ずっしりと重くなった財布。
いつもは銅貨2枚入っていたら良いほうだ。
「…あれで良かったのかなぁ…?」
焼魚定食をつつきながらジーニアスが言う。
骨が丁寧に抜いてあり、適当な暖かさ。
きっと、目の見えないジーニアスへの店の主の気遣いだろう。
『ジーニアスは沢山の人に見守られているのだな。』
短い時間を共有しただけだが、この町の皆がジーニアスを影でそっと支えて、支えられている。
そして、そんな彼女に惹かれる自分。
「ジーニアス…暫く、一緒に居てもいいか?」
そう言うと、
「うん。どうぞ。
って言ってもあんまり良いもの出せないけど。」
ジーニアスが苦笑を浮かべる。
「いや。私も働く。
自分の食いぶち位稼ぐから。
すまないな。」
彼女の大きな負担になると分かっても居たいと願った。
「お金稼ぐのはいいけど…。
お仕事あるかな?」
ジーニアスが小首を傾げる。
「大丈夫だ。私にはコイツがいる。」
そう返してそっと愛刀に手をやった。
人の居る場所には必ず邪なのが常に存在している。
この町の中はきちんと整備されていて、安全だ。
だが、一歩外に出ると獣や盗賊などが徘徊する世界。
それをクラトスは知っている。
そして、元々傭兵―ようは荷物運搬などの護衛―で食っていた。
だから、町の人も森に行く。
それの護衛をする職についたのだ。
長くても1日。
それでそれなりの稼ぎになる。
稼ぎの半分をジーニアスに渡し、残りは貯蓄する。
またいつか旅に出る。
その時の資金になるのだ。
最初、ジーニアスはお金を受けとらなかった。
たいした事も出来ないし、クラトスさんのおかげで稼ぎが良くなったから。と。
「ジーニアスの目の手術費に。」
そう強く言って渡した。
ジーニアスの家に住みついてから半月たったある日、豪華な馬車がジーニアスの家に停まった。
ガチャ…と戸が開く。
「わぁー領主様だ!」
外で遊んでいた子供達が駆け寄る。
「こんにちは領主様。」
「ああ。こんにちは。」
長い金色の髪に若葉色の瞳。
一見、冷たい容姿をしていたが、その目は暖かい柔らかい光をおびていた。
ユクドラシル。この町を収める若き領主。
町の人達に慕われる存在。
子供の頭をぐりっと撫でて、
「ジーニアスはいるか?」
「うん。お姉ちゃんいるよ。」
「クラトスと一緒に裏にいるよ!」
聞きなれない人名に驚きつつ、
「分かった。ありがとう。」
そうにこやかに返して裏へと向かう。
裏へ出ると賑やかなジーニアスの声。
こんな明るいジーニアスの声は久しぶりに聞いたなと思いながら声をかける。
「ジーニアス…。」
洗濯していたジーニアスが止まり、声のした方へ。
「ユグ…。」
ジーニアスの声。
そして、
「ジーニアス?」
知らない男の声が被さる。
どうやら、井戸から水を汲んできたらしく、桶を持っていた。
「あ。クラトスさん。」
水の入った桶を受け取り、盥に流す。
「領主様。ごめんなさい。
少し待ってください。」
「ああ。」
ユクドラシルが短く返事を返す。
こぽこぽと茶を煎れる音。
「はい。」
「ありがとう。」
礼を言って受け取る。
ジーニアスが煎れてくれる茶が一番好きだ。
一口飲んでからジーニアスが、
「あ。紹介まだだよね?
こちらはユクドラシル。
この町の領主様。
で、こっちはクラトス。
旅の傭兵さん。」
「はじめまして。
ようこそ我が町へ。」
「こちらこそはじめまして。
とても素敵ないい町ですね。」
そう挨拶を交してジーニアスへと視線を向ける。
「それで…ジーニアス…。」
ユクドラシルが何かを切り出す。
「…………ごめんなさい。
やっぱり駄目だよ…。」
ジーニアスが目を伏せる。
「どうしてもか?」
ユクドラシルの悲しそうな声。
「うん。ごめんね。」
「…いや、いい。
また来るから。」
そう言ってジーニアスの頭を撫でる。
「何度でも来るから。」
「うん。ごめん。」
ジーニアスが泣きそうな顔でそう言った。
「クラトス。ちょっといいか?」
茶を飲み、そろそろ行くと言ったユクドラシルがクラトスに声をかける。
「ああ。」
ジーニアスに見送りしてくるとちゃんと伝え、一緒に家の戸をくぐった。
ゆっくりと馬車へと向かう。
「ジーニアスは幼なじみだ。」
ユクドラシルがぽつりと言う。
「彼女の目を潰したのは私が原因なんだ。」
「…そうか。」
事情は聞かない。
いつか、話してくる時を待つ。
「なんの事情があるのか私は知らないが、ジーニアスにあまり関わるな。
お前が居なくなって困るのはジーニアスだ。」
冷たく言われたその言葉。
彼にとってジーニアスが大切な人なのか伝わる。
多分、先ほどの会話は、結婚の申し込みの返事なのだろう。
何度も何度も申し込んではごめんと言われるみ
それでも諦めが付かず、また来る。と。
☆文字制限キツー。
続く。